タイトル1

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伝えると文化 Issue 1:笑いの国境

初めてクライアントに怒られた話

約20年前、広告業界で働きはじめてばかりのころ、タイ大使館の仕事をしたことがある。タイフードフェスティバル(当時:今はタイフェスティバルに改名)という、代々木公園で開催される大きなイベントである。その告知などなどの業務を請け負ったのだが、その一環でTシャツのデザインの提案をした。それが、タイの王室の紋章である神鳥「ガルーダ」ものだ。そしたら、「山内さん、見なかったことにしてあげますので、気を付けてください。」と注意された。タイの国を代表する素材、しかもカッコいい素材をあしらっただけ(実際カッコいい)、のつもりであったが、日本で言うと“皇室の菊の紋章をTシャツ化”したものよりも、恐れ多く、とんでもない感じだったらしい。

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こんな極端な話でなくとも、

人々の生活や日常の中に入り込み、愛されたり、楽しまれたりするものが、広告制作物やキャンペーン。

それを“世界で通じる”ものにするためにはどうすべきか。

それを考えてみる、書いてみるのが、この連載である。

 

いのユニバーサリティとローカリティ

冗談、ギャグ、ユーモア、世界で笑いという文化を持たない民族はいない。一方、これほど時代性や文化に対してのセンシビリティが要求されるものものない。上沼恵美子の会話の妙を理解し笑えるアメリカ人がどれだけいるだろうか。

コマーシャルコミュニケーションと笑い

私も通常業務の中で、いわゆる海外発のアイデアやキャンペーン、TVCMの“アダプテーション”(海外のものを日本で活用するために、アイデアを活かしながら、意訳したり、タレントや設定を入れ替えたり、または翻訳して吹き替えやサブタイトルをつけたり、ベストな形で提供する作業)の中で、一番処理に困るのが、このお笑いの部分である。

面白くなかったら、面白くしなければならない。また、なぜ面白くないのか、説明しなければなならない。

どこを間違うと失敗するのか:笑いの構造から/緊張と緩和

そもそも笑いとは何だろうか。イマヌエル・カントは 「笑いは緊張の緩和から来る」と定義している。まじめな状況で、いきなり変なことをすると緊張が緩和される、そんなイメージだろうか。確かに、そういう感じかもと思う。中学生のころ、全校集会で校長先生が話している、そんなときに奇声を上げたいと思った人も少なくないだろう。

“緊張の緩和”を前提にすると、“緊張”と“緩和”、その両方が社会やコミュニティーで“共有”されていないと通じない。緊張とは、その社会やコミュニティーが共通の感覚として持つ“抑圧”や“ストレス”、あるいは”普通とされているが、けど実は合理性のない状態”などである。例えば“権力者がいる、それが自分勝手なことをしていることに対する抑圧やストレス“というようなものはかっては比較的ユニバーサルな緊張で、政治漫画や金持ちを揶揄するマンガなどが各国にあったのであろう。

CAPITALIST PYRAMID, 1911. Pyramid of Capitalism.' American Socialist poster, 1911. 

どこを間違うと失敗するのか:「緊張」の設定

緊張と緩和、言い換えると”設定”と”つっこみ”。
まず、その設定が”つっこんでもいいもの”なのか、突っ込んでも意味のない、または突っ込めない部分なのかは文化によって違いがでる。
例えば、ゲイ風の芸風を持つ芸能人は日本では非常に多い。ゲイっぽいだけで笑いがとれる。しかしアメリカで“ゲイだ”とか”ゲイっぽい”ということだけで笑いがとれる、またはメディアにのるような笑いにはならない。設定として”LGBTではない”という人間が多数派の中で”LGBT”かつ”メディアの中で自虐も含め活動するオネエ文化”が日本にあり、アメリカではたとえばセックス&シティーのスタンフォードのように”女性の人生にリアルに存在してほしいキャラ”で描かれることはあっても”変で面白い”というだけで、特にメディアの中で語られることは少ない。

どこを間違うと失敗するのか:「緩和」の設定

また、緊張だけでなく“緩和”にも同様の文化的共通理解が必要である。スニッカーズのTVCM、世界中で放映されているCMだが、世界各国で“セレブが嫌なキャラ”を“おなかが空いて機嫌が悪くなった状態の表現”として演じている。
笑いの定義でいうと、ここでの緊張は“セレブ=デカい顔をしている奴がいる”ということであろうか。

その嫌な奴が“転んだり、ひどい目にあう”という“緩和”のシーンが描かれている。転んだり、突っ込まれたり、嫌われたり、である。この緊張“セレブ、のさばってんな”、に対して緩和“そののさばっている人が、転んだり、いやな目にあうのは笑えるは、ユニバーサルな、世界各国で共通のインサイトである。

しかし“緩和の表現”には地域差が出る。緩和の対象として、“いじわるで頑固な老人の女優が倒される”なんてのがアメリカ版にはあるが、日本ではそれはできない。老人を冗談でもいじめるように見えるものは、日本人は受けつけない。日本人は、老人に聖性を感じているからだろうか、同じシーンを見ても最初に感覚的に想起されることが違う。

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まとめ:鏡に、上手な、落書きを

緊張と緩和が正しくなされているか、それが笑いとして世界で通用するかのポイントになる。
具体的には、“緊張:突っ込んでいる対象が正しいか”、“緩和:突っ込み方が正しいか”、両方が求められ、
コマーシャルコミュニケーションとして、クリエイティブのアイデアとしては、まず「突っ込んでいる対象」が
世界共通のユニバーサルなものであるかどうかが、世界で通用するための第一条件になるであろう。
それがユニバーサルでない場合は、アイデアから再考すべきであり、緊張がユニバーサルな場合には、
緩和がその文化圏の文化で通用するか検証が必要になる。

お笑いは、鏡に書いた落書きのようなものだと思う。緊張として描く対象がその国・文化圏、もしくはユニバーサルなインサイトを反映しているか、

そしてそこに書く落書きが、適切な場所に書かれているか。

その社会や文化を反映できる、いい鏡を持ち、上手に落書きをしたいものである。

執筆者紹介

山内

山内 陽介
I&S BBDO
プランニンググループ
グループプランニングディレクター

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